2013年4月10日水曜日

耐震診断をしてみると

例年は年度末とは関係のない仕事ばかりなのですが、特定緊急輸送道路に面する建物の耐震診断に関わっていたので久しぶりに年度末に滑りこむスリルを味わいました。

東京都では特定緊急輸送道路に面する建物で一定の条件を満たすと耐震診断費用の全額が助成されることになり、昨年の春から施行されています。
神戸の大地震で倒壊したビルが幹線道路を塞いでいる映像が思い出されますが、まずは診断で現状把握、そして補強工事の推進、更に建て替え促進ということでしょう、大いに結構なことと思いました。

昨年、RC6階建ての集合住宅のオーナーから相談があり診断業務を引き受けました。実際は長い付き合いの構造事務所に診断作業をやってもらう訳で、こちらはオーナーとの調整や手配、申請業務だけと高をくくっていた訳ですが、結局は調査やレベル測定などいろいろやるはめに(^^ゞ

さて、実際に診断結果が出てみると、Is値が0.6を上回るのは最上階のみ。1階などは0.3をも下回る数値。これは倒壊の危険性ありに該当するのですからオーナーへの説明も大変です。

ご案内の通りIs値(地震の震動及び衝撃に対して倒壊または崩壊する危険性を表す指標)は以下の通り区分されています。
  • 0.6以上:     危険性か低い
  • 0.3以上0.6以下: 危険性がある
  • 0.3未満:     危険性が高い

元々、今より緩い構造基準の時に設計・施工されているので、診断をすればまず間違いなくアウトの判定になるのは分かっていたのですが、さすがに0.3未満の「危険性が高い」判定にオーナーも困ってしまいました。

補強となれば、一度バルコニーを壊してアウトフレームを打設し内部にも耐震壁追加など、かなりの大工事となりそう。しかもそれで新耐震基準をクリアするわけではなく、倒壊をするまでに安全に避難できる時間を稼ぐ意味合いというのですから悩むのも当然です。まして築40年近く経っているのでRC造の寿命も考えれば大金を投じる補強工事は更に難しくなります。
結局、オーナーも提出報告書には「建替え検討中」と書かざるを得なくなってしまいました。

教育施設や病院などのほか歴史的建造物でもないと耐震補強工事の例が多くないのも無理からぬこと。特に集合住宅では、費用負担や不公平感など住民の合意形成が難しいでしょう。

ここ数年、耐震診断の相談がいくつかありましたが助成額の上限がそれほど高くないせいか見送りになるものばかり。民間の場合は今回の「全額助成」でもないとなかなか診断までもいかないのかも知れません。

とにかく今回は、地震時の安全と建築物の寿命に対しての費用対効果の間で悩むことになり、もっと永く使える建築を造らなければいけないのだと改めて考えさせられました。